最高三千回、納豆を混ぜてみたことがある、なんか惜しいぜ、押居A太です。
幼なじみの、東郷。二歳年下の妹、やさしい母、無口でハードボイルドな父。
ある日、六年生になり中学受験を控えた東郷に自分の部屋が与えられた。
「オレ、本気だよ。今日から猛勉強するんだ」。
本当のところ、妹と一緒はもう恥ずかしい、という思春期にありがちな理由。
しかしそこから、2LDKの東郷家に亀裂が生じていく。まるで玉突きのように。
まず、兄と部屋をシェアしていた妹。
「お兄ちゃんばかり、ずるい」。妹は一時的に両親の寝室へ迎え入れられた。
これに乗じて母親は「おとーさん、いびきがうるさくて眠れない」。
戦況は三対一。
…はめられた!無口な父は思った。まもなく父はダイニングで眠ることになる。
ある日の夕食、無口な父の大好物、焼き魚だ。
父親は喜んで食し、幸せな夕べは終わったかに見えた。「臭い、眠れない…」。
…また、はめられた。その日の夜中、父親になってはじめて泣いた。意外と焼き魚の煙りは目に染みるのだ。
そんなわけで、東郷家は引越した。
東郷と妹はそれぞれに部屋を、無口な父は小さいながらも書斎を勝ち取った。
納戸だ。古いミシンを机に探偵小説を読みふけり、振り向けば時代に合わないフランス人形に微笑みかけた。
納戸だけにモノは増えていく一方だったが、父は自分の居場所に大満足だ。
家族に笑顔が戻り、ようやく家庭に平和が訪れた。
…ところで今、会社にはボクのデスクがない。
「押居くん、新入社員が入って来たから、キミはあっち」。
……?ここ、廊下、ですよね?